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第3章

仕事の喜びを胸に

 都心の真ん中にあって車の往来も多い、私の会社の前には駐車場の側に三角柱型の看板を設置してあり、その看板をぐるっと囲むように植え込みが繁っている。
 元々は植え込みだけだったところに看板を立てたので、設置した当初はその部分だけ無残に切り取られ、心が痛んだ。

 朝、出勤してくるとその看板横に車を停める。植え込みの剪定をするのはもっぱら私の役目だ。社員には任せておけない、マイはさみ(?!)はちゃんと車に積んである。
 剪定はさみで刈り込んでロープで枝をしならせるように丸みをつけた。数か月も経つと立看板を優しく緑の葉が囲んで、グリーンの看板文字と調和して溶け込んでいる。

 会社を訪れて下さるお客様を建物入口で最初にお迎えしてくれる植え込みと看板も、すっかり我がもの顔で気分も爽快だ。

 「社長、私たちがやりますから・・・」パチン、パチン刈り込んでいる傍らで社員が申し訳なさそうにごみ袋片手に立っている。
 「いやいや、 私に任せなさい。君たちは刈り取った枝葉を片付けて」と、手早く済ませて仕事に戻る。

 「来店型会計事務所」と名乗っていると、様々なお客様がお見えになる。税理士の仕事を超えて一緒に解決しないと進まないこともしばしばだ。そこがダイヤモンド経営の役目であることを、ここへ越してきて痛感する

 糸満市のS先生もそうだ。S先生は腕の良い内科医であるが、薬品会社の方から「S先生が大変困っているので何とかならないでしょうか?」と相談をうけた。
 S先生が開業をされた場所は、雑居ビルが立ち並ぶ敷地の中のひとつで、2階にあった。雑然として他の事務所や店の看板が秩序なく掲げられ、それらに埋もれ、ようやくS先生のクリニックの看板が見つかるといった感じだ。

はたして、この状況で内科専門の対象となる患者は来るのだろうか・・・

 私の受けた印象同様にクリニック経営は芳しくない。独立する前は腕がいいと大変評判のお医者さんである。薬品会社の担当者は窮状する先生を見ていられず、打開策はないものかと私を頼ってやって来た。

 S先生のクリニック経営の実態を知るためにまず、ひととおりの財務諸表を見せてもらう。「なるほど・・」その言葉の後に続くものを一度飲み込んで、冷静に向き合う。
 現状の売上に見合わない設備投資、それよりも絶対的来院患者数が不足している
 苦しい現状を打開するために、と思って新たに導入した医療機器の支払いも更に経営を苦しめている。

 中途半端な関わりで、小手先だけのアドバイスや対策をしてもクリニックは決して良くならないだろう。朝に晩に、時には昼間もクリニックに出向いてクリニック周辺の立地をつぶさに見てまわった。

 財務の改善と大変革の決意をしなければクリニックの再建は出来ない。そう思った私はS先生にお会いしてその思いと考えをぶつけた。最初、面喰ったS先生も、何度か会う度に信頼関係も築け話に耳を傾けてくれた

 S先生のクリニック移転と財務内容の大幅な見直しという目標を掲げ、ウチの財務担当者には詳細な指示をだし借入内容のシュミレーションを行いリース会社や金融機関との交渉を直接私が行い、資金繰りを検討させた。

 一方でクリニック移転先を探すことにした。既に開業しているので元の場所から離れすぎるとリスクが高くなる。となると移転先はおのずと限られてくる。建物の1階で適当な広さで駐車場を確保しなければならない
 こうして、私の物件探しは日常の仕事をこなしながら始まった。クリニック近くに車を停めて気になる物件を見て回った。空き店舗だけでなく、既に商売をしている店舗に入り店主に交渉したのも一度や二度ではない。商売している人の中には、自己所有店舗で自ら商売すると赤字で困るが、家賃収入が入ると有難いという人もいるからだ。

 クリニックの移転先もそのようにして探した。何ヶ月後かに閉店するという物件に出会ったのだ。1階で駐車場は確保できたが、以前よりかなり狭くなる。S先生は最初その点において難色を示したのだった。けれど私は移転にかかる経費を最小限に抑え、移転先でどの位の収入が見込めれば借入金も無理なく支払っていけるかを、実際にシュミレーションし、数値化して示した。すると先生は「この面積でもこの患者数と医療行為をする場所は十分確保できるだろう。」と理解された。

 移転と借入金の借り換え、リース見直しなど、一気に再建プロジェクトが進行しS先生の新たなクリニックがスタートした。その後順調に売上も増え、財務監査にお邪魔するウチの担当者から嬉しい報告があった。

 「S先生の笑顔が今までとは違います!!」
 「そうか~!!」私まで愉快な笑みがこぼれてきた。良かった良かった。

 私の仕事の喜びはこの瞬間にあるといっていいだろう。喜びを胸に上機嫌の私は社員に話しかけた。
 「今日の夜食は何にする?私が買出しに行ってこよう!」

 S先生の見えてきた成功の兆しに、小躍りしたくなる気持ちを抑えながら夕暮れの街へ出た。

 毎年恒例の確定申告時期の夜食買出しのためだ。この時期、税理士事務所は猛烈に忙しい
 しかし、忙しいからといって疲れていたのでは、毎日が苦しいので、私は敢えて楽しく過ごせる繁忙期にしたいと工夫を凝らす。マンネリ化しないよう、合宿さながらに楽しい夜食タイムは今や大事なコミュニケーションの場になっている。

 ルンルン気分で社員数名をお伴に、数十名分の夜食を買いに街へ繰り出す。そこへ経理の社員がぽつり…
 「社長が買うと予算オーバーするんですよねぇ…」すみません。でもこれも私の役目、来年もすると思います。

2007年3月確定申告の季節は終盤を迎えていた。

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