追憶のキャバレー
若い頃から事業承継に取り組んできたことは先にも書いたが、その頃出会ったN先生は、先生の先生、さしずめ税理士界のブラックジャックと言ってもよさそうだ。
全国で事業承継の難しい案件があれば、地元の税理士とタッグを組んで知恵を出す。10歳以上も歳が離れた先生は全然威張ることもなく、当時から若い私を可愛がってくださった。
難しいと思って相談する案件も「山内くん、僕はこう考えるんだよ。」涼しげな顔で惜しげもなくそのノウハウを伝授する。いつか一緒に仕事をしたいと思わせる人柄は、この頃から既に持っていらっしゃった。
バブルの崩壊、長引く不況で事業承継対策の案件は減っていたが、それでも企業が存続する限り、自社株式や相続問題というのはなくなることはない。
先のK氏の相続・事業承継対策で私は15年振りにN先生に連絡をとった。相変わらず気さくで軽やかだ。
「山内くん、久し振り~元気しとった?駅前の喫茶店でコーヒーでも飲もう。」
15年の時間の溝なんて関係なく、拍子ぬけする私をよそにN先生は説明に聞き入り、持参した書類をパラパラめくりながら「山内くん、これはこうしたらどう?僕はこんな風に以前やったよ。」とすぐさま答える。やはり頭のシャープさは健在だ。おっと、失礼!!
それにしても恐れ入る大先輩だ。私はすぐに先生に向ってこう言った。
「N先生、この案件で私と一緒に仕事をして下さいませんか?」
「ああ、いいよ!沖縄は久し振りだなぁ~。」
いつか一緒に仕事をしたい!と思ったN先生はこの業界では大御所だ。
この先生と一緒に仕事が出来ることで、更に私の気持ちも引き締まる。何より社員の自己研鑽とスキルアップには、一緒に仕事をさせていただくのが何よりだ。鬼に金棒という気分はこういうものか。
私はもっとお客様のための役立つことが出来るという希望と確信で、東京からの帰りの飛行機は子供のようにワクワクしていた。
その後、N先生と提携した仕事も無事に終わった。「これを機会にもっと積極的に事業承継に取り組んでいこう」こうして始めたN先生とのコラボレーションによる事業承継セミナーも、今年で4回目を数えた。
沖縄の復帰後設立した中小企業が、継続と成長を遂げそろそろ事業承継を迎える頃にあたり、年々関心も高まっている。セミナーを終える毎にその反響の大きさを実感する。
このセミナーを通してお客様になっていただくことも増えた。新しい出会いは嬉しい限りだ。
毎年、N先生が沖縄に来られるようになって、社員も私もこれまで以上に勉強し、それに備え対策案をしっかり組立、それを先生にチェックしていただくプロセスが整ってきた。
難解な課題にも皆で意見を出し合い素直に教えを請う。
その打ち合わせが終わった後、先生を交えての食事会も楽しいひと時だ。全国であった色々な出来事を聞き、先生の気取りのないお喋りで場も和む。
ところが、ひとつ困った事がある。ひょうひょうとした口ぶりで先生が突然、
「山内くんに昔キャバレーに連れて行ってもらったなぁ~。」と人懐こい笑顔で言い出すではないか。
「先生、そうですか~私ではないと思いますよ。」何度取り消してもN先生は「いいや、山内くんだよ。」と言う。社員は一斉に私を見る。とほほ…私は絶対連れて行ってませんと言っているのに…20年前の事情を誰に聞いたらいいものか。

















