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第1章

たかが税理士されど税理士

 2005年5月、ようやく那覇市おもろまちへの移転が完了した。
 大きな自社ビルから小さな賃貸事務所への引っ越し同様、又もや運送業者など一切使わず、社員全員で引っ越しを実行した。もちろん、陣頭指揮を執るのは私だ。

 そもそも税理士事務所は3月の確定申告と5月で一番法人申告の多いこの時期を終えて初めて、盆と正月が迎えられると言われるほど、5月は繁忙期だ。
 その5月申告終了と同時に事務所移転というのだから本来、社員の内心は「やれやれ…」という気もあっただろう。しかし、社員は誰一人嫌な顔をする人もなくベテラン社員が一番声をだして、他の社員を引っ張ってくれた。

 その引っ越しの時、社員の一人が「アルバイト生は必要でしょうか?」と聞いてきた。
 業者を使わず引っ越しをするのだから、しかも日常業務への影響を最低限にとどめる為に、人手はいくらでも欲しいところだ。

 私はすぐさま、「誰かアルバイトしてくれそうな人がいるの?」すると、社員から返ってきた返事に
 私は嬉しさと同時に感慨深さと感動を覚えた。

 「社長、ウチの息子二人は高校生になりました。力仕事なら役に立てるかもしれません。」
 「そうか・・・あのチビ達は高校生になったのか・・・」

 長年、ウチに働いてくれ、私が別の事業でつまづいて大変な時も、支えてきてくれた社員。
 小学生だった子供たちも、今では体力十分の高校生になっていたのだ。

 嬉しい応援もあって、ようやく那覇市の中心に税理士事務所を移転した。

 これから沖縄経済の中心となるおもろまちに「来店型会計事務所」と銘打って税理士事務所を始めるのだから、もっと有効にこの事務所を活用したいと、その時から考えていた。

 おもろまちの事務所は建物の前面に駐車場があることと、大きな通りに面していることで、私自身も気軽に「事務所にお越しください。ゆっくりお話を聞きましょう。」と言えるようになった。

 そうしてお会いする方々に私の経験をお話すると、皆さん決まって「先生がそんなに苦労してきたように見えません。だから、私の事もよくわかってくれるんですね。」とおっしゃって下さる。
 大きな借金をしたことは、何の自慢にもならないが私が借金を返す苦労を先にしていることで身近に感じるのだろう
 経営者と同じ立場に立って、自分の事のように万策尽きるまで逃げないで考えて立ち向かうことこそ最大の策であることを経験から学んでいる

 そんな中、顧問先の社長のお父さんが亡くなった。

 顧問先の社長は私が苦労している時、とてもお世話になった方で、その社長のお父さんも大変お世話になった方だ
高齢であるけれど、老人ホームに入所されて穏やかに過ごされていると聞いた矢先だった。

 とても残念な気持ちを心いっぱいに抱え、相続税に係る業務が開始した。
 相続というのは、人の尊い一生がすべて異なっていたように、相続の事情も異なるといっても過言ではない。
 だからこそ、いつも慎重にけれど気負わず冷静にあたるように心掛けている。

 社長のお父さんの相続も相続人が多いだけでなく、そのうちの一人で、代襲相続人になる方の所在が分からず苦労した。相続税申告期限が刻々と迫ってくる。

 しかし、あきらめてはいけない。

 相続人の一人がどうしても所在が掴めないので、家庭裁判所に対して不在者財産管理人選任の申立てをすると、家庭裁判所から「○○さんは、○○県(九州)で運転免許更新をされた記録がありますので、そちらをあたってください。」とにべも無く言う。

 何十年も親交のない親族にとって、その方を探してどう事情を説明すればいいのかわからないといったところが本音であろう。その気持ちもよく分かる。そこで私が九州まで行って探してお会いすることにした
 相続の事情や財産・代襲相続について等、税理士である私から話すほうが中立で相手も受け入れやすいだろうと判断してのことだ。

 結局、代襲相続人の住所地を探し訪ねても本人には会えず、やはり所在不明ということで、手続きを執り相続税申告が進められた。

 相続人のうち一人でも意見がまとまらない場合、申告面で不都合になることが多い。亡くなった方の最後の相続税申告をきれいに終わらせることで、その方の人生にきちんとピリオドが打てると、常々思っている。

 「山内さん、そんなところまで税理士ってやるの?」驚かれることもしばしばだ。

 しかしその時に、はたと考える。「たかが税理士、されど税理士」なのだから、私の経験と資格を使ってお客様のためになるのならすべきではなかろうか。

 税理士のフィールドを超えて客様の立場に立って、共に課題にあたる。
 先日も借入の返済で資金繰りが厳しいお客さまと共に、金融機関へ伺った。現状の説明や、これからの財務改善について説明や、お客様からは今後の商売の展望について話していただいた。
 こちらの熱心な態度と要望に、金融機関担当者も融資条件や変更について、新たな提案をしてくれた。
 交渉の新たなテーブルについたことで、お客様である社長も商売に前向きである。

 共に課題に立ち向かうことで、道は開けるものだ。

 税理士としての仕事の線をここまでと引いてしまうと、お客様の解決しない問題はどこに向けたらいいのか困ってしまう。

 私はお客様と共に税理士のフィールドを超えて、役に立ちたいと願ってやまない。

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